2013年02月28日

アカデミー賞をとった 「アルゴ」





    2012年に、日本で全国公開された作品、
    アメリカ映画「アルゴ」は、
    どういうわけか静岡県中部の映画館では、
    どこでもやらなかった。

    
    それから5か月が過ぎ、
    恒例のアカデミー賞の季節。
    そこで、にわかに浮上してきたのが、
    この「アルゴ」だった。

    
    アカデミー賞には、
    作品賞(これが一番の目玉)のほかに、
    監督賞もあって、
    そのいずれにもノミネートされたものが、
    最有力とみなされている。

    
    ところが、この「アルゴ」は、
    どういうわけか監督賞には、ノミネートされなかった。

    
    そのため、かなり悲観的な予測も流れていたのだが、
    フタを開けてみたら、
    「アルゴ」が作品賞・・・だった。

    
    
    もしかしたら、静岡の某シネコンでは、
    こういう結果を予測していたのだろうか。
    アカデミー賞の結果が発表される直前から、
    突然、「アルゴ」を上映し始めたのである。
    しかも、1000円ぽっきりで。

    
    ぼくが新作映画の紹介をやっている某ラジオ局の
    パーソナリティ・中村こずえさんは、
    「アルゴ」を東京の試写会で見ていて、
    「けっこういい作品。
    ベン・アフレックは、役者よりも監督に向いている」
    なーんて、
    褒めてるような、貶してるような、
    ビミョーな発言をしていたけれど、
    とにかく、見てきました。

    
    アメリカ政府が、
    18年間も秘密にしていた人質救出作戦を、
    その事実にもとづいて映画化したとなれば、
    そりゃ、見たくなりますよ、ね。

    
    
    で、その結果は?

    
    あ、う、ウーン。
    なんちューか、かんちューか。

    
    CIAが、
    大使館員救出作戦として考え出したのは、
    偽の映画ロケ作戦だったというのが、
    奇抜というか、奇想天外というか、荒唐無稽というか、
    信じられないようなアイデアで、
    「こんなんで、ほんとうに救出できるのかよ?」
    という不安を否定できず、
    だからこそ、それゆえに最後まで凝視してしまうという、
    「してやられ映画」ではありました。

    
    しかし、「これが、アカデミー作品賞受賞作品です」
    と言われると、
    小声で、「ウッソーーーーーッ」と呟きたくもなります。

    
    全体的に、俳優も含めて小粒というか、
    地味というか、迫力は弱いのです。

    
    
    で、邪推してみると、
    「映画が、人質救出に役立った」というところが、
    いかにもハリウッドに好感されそうだし、
    CIAが、国家の威信を賭けてではなく、
    CIAのスタッフ個人が、
    自分のいのちを賭けて国民を守ったというところが、
    もろヒューマニズム的になっていて、
    「アメリカはアメリカ国民を守ります」
    という絶好の宣伝材料になっている(かもしれない)。

    
    だから、
    オバマ大統領夫人のミシェルが、
    喜んでプレゼンターを務めたということにも、
    な、り、ま、す、よ、ね。

    
    
    見終わって、ふとぼくは考えました。

    
    日本の国も、
    あるいは日本の警察や公務員も、
    このように、
    名もない市民を、いのち賭けで守ってくれるだろうか。

    
    日本は、なにかの人質になっているわけではないけれど、
    いま、たくさんの人たちが、
    生死の境を彷徨っていて、
    年間の自殺者が、まだ3万人近くいるのです。

    
    
    もしかしたらハリウッドは、
    「もっとアメリカ国民を守れよ」と言いたいために、
    この映画にアカデミー賞を贈った・・・
    なんてこと、あるわけない?
    よなあ。
    つんつん。


    
    
    
    
  

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2013年02月08日

「人が苦しむところ そこが私の祖国」 と マフマルバフ  




    日本では、
    「カンダハール」という作品が、
    もっとも知られているのだろうか。
    古いものでは、
    「サイクリスト」という秀作もある。
   
 
    しかし、ぼくは、
    「行商人(THE PEDDLER)」が一番好きだ。

    
    イランの名監督。
    モフセン・マフマルバフ。

    
    若いころ、反体制運動で逮捕され、
    数年間の投獄生活を経験したという強者マフマルバフ。

    
    彼はいまも、
    民主化運動を弾圧する政府を批判しているため、
    事実上の亡命生活をおくっているという。

    
    そんな彼の最新作は、
    「THE GARDENER」(庭師)>

    
    これは、
    他者への暴力で成立し、維持されてきたイスラエルにありながら、
    イランを発祥の地として、
    絶対平和主義を貫いてきた「バハイ教」をモチーフにして、
    「共生」の哲学を探究する作品だという。

    
    これは、すでに、
    釜山映画祭で上映されているが、
    日本に入ってくるかどうかは、不明だ。

    
    
    ほくが、もっとも感銘を受けた初期の作品
    「行商人(THE PEDDLER)」も、
    むかし、NHKで放映されたときに見たのだけれど、
    その後、ビデオもDVDも発売されないままになり、
    やむをえず、アメリカからビデオを取り寄せて、
    大切に持っている。

    
    マフマルバフは、語る、
    「私の主張が気にいらないなら、おまえを殺す。
    これが、ブッシュやオバマのやりかたで、
    そもそも社会システムそのもが間違っている。
    アフガニスタンも、タジキスタンも、そしてイスラエルも、
    私の祖国です。
    何処であれ、人が苦しんでいるところがあれば、
    そこが私の祖国なのてす」

    
    
    
  

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2013年02月06日

アルベール・カミュ原作   「最初の人間」 





    「異邦人」「ペスト」などで知られる・・・
    フランスのノーベル賞作家・アルベール・カミュの、
    かなり自伝的色彩の強い絶筆作品、
    「最初の人間」が、2011年に映画化され、
    2012年の後半に、岩波ホールで公開された。

    
    それが、静岡へもやってきたのである。
    ちなみに、タル・ヴェーラの「ニーチェの馬」も、
    まもなく静岡へやってくる。
    

    
    映画を見るまで、この作品のタイトル「最初の人間」は、
    人類最初の人間を意味するのかと思っていたが、
    ドラマの途中、
    主人公のジャック・コルムリがアルジェで生まれたとき、
    彼の父親は、わが子のことを、
    「ル・プルミエ・オム」と呼んだので、
    ああ、そういうことかと思ったのだが、
    解説には、
    ジャックにとつては、母親こそが、
    「ル・プルミエ・オム」なのだという。

    
    
    これを見る前日、たまたま同じ映画館で、
    日本映画「その夜の侍」を見ていたので、
    はからずも、この2作品を対比的に見てしまったのだが、
    「その夜の侍」が、
    つくりも台詞も最新のセンスでまとめられているとすれば、
    この「最初の人間」は、
    戦前のフランス映画だといっても、なんら違和感がないほど、
    見事に古典的な作風。
    ぼくにとっては、
    どちらも、めちゃ魅力的に思えた。

    
    そして、
    「へんに技巧をこらさず、観客に媚びてはいない」
    という点で、
    この二つの作品は、酷似していたのである。

    
    
    いまは、フランスで著名な作家となっているジャック・コルムリは、
    貧困のアルジェで育ち、いま、
    その町を旅している。
    そこには、当然、
    支配国フランスと、植民地フルジェリアの問題が、
    横たわっている。

    
    ジャック・コルムリは、現地アルジェの大学で、
    「作家の義務とは、歴史をつくる側ではなく、
    歴史を生きる側に身をおくことです」と、
    語る。

    
    村上春樹のスペインでの講演は、
    このコルムリ(カミュ)を真似たのだろうか。
    

    
    ぼくは、スクリーンを見つめながら、
    なぜかアントニオ・タブッキを思いだしていた。

    
    「最初の人間」は、
    2011年のモントリオールで、国際批評家連盟賞、
    おなじくヴェネチアで、外国人記者協会賞を与えられている。

    
    卑俗的な紹介をするなら、これは、
    アルベール・カミュの故郷再訪旅行の
    心証的な映像化である。

    
    いささかも大衆に媚びることのない孤高の作風が、
    じつに魅力で、好きな作品だ。

    
    
    
    

  

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2013年02月05日

赤堀雅秋  その夜の侍



 
    いかにも詩的で、いささか文学的な・・・・
    題名である。

    
    「その夜の侍」
    赤堀雅秋監督作品。
    

    これは、
    赤堀雅秋が率いる劇団「THE SHAMPOO HAT」が、
    下北沢のスズナリで上演し、大評判となり、
    このほど映画化に及んだものである。

    
    
    物語は・・・。
    小さな鉄工場を経営する青年は、妻を轢き逃げされて亡くし、
    深い喪失感のなかで虚無的に生きるなか、
    轢き逃げ犯人を刃物で刺して、自分も死のうとする。
    それを、荒々しいタッチで活写している。

    
    伝統的なドラマツルギーを学び、
    古典的な表現手法に汚染された感覚の持ち主には、
    やや受け入れ難い作品といえるが、
    貧しさのなか、正気と狂気のはざまに生きる人間を、
    青臭くも鮮烈に描いた秀作。

    
    復讐青年を演じる堺 雅人は、
    これまでの生ぬるい草食人間的なふやけた風貌をかなぐり捨てて、
    腑抜けた復讐鬼を熱演し、観客をひっぱっていくため、
    ついつい固唾をのんで画面を見つめることになる。

    
    それは、この復讐劇がどうなるかという、
    スリルとサスペンスのせいではなく、
    随所に点在する閉塞状況下の人間の描写が、
    じつにユニークだからだ。

    
    とくにラストの雨の公園での対決シーン。
    復讐青年・堺 雅人は、
    メモを取り出して、
    毎日の食事の記録を読み上げ始め、
    轢き逃げ青年のみならず、
    観客までもを唖然とさせる。

    
    ○月○日朝 セブンイレブンのサンドイッチ
        昼飯は抜き
        夜はカップラーメン・・・・
    といった調子で、数日間の食事の内容が披露されるのだが、
    すべてがセブンイレブンの個食であるところが、
    凄味を帯びて伝わってくる。

    
    かくのごとく、
    赤堀雅秋のフィクションは、
    その嘘っぽさの欠落が、しつに鮮やかなのだ。

    
    山田孝之扮する轢き逃げ青年・木島は、
    「うんこ出ない」という台詞を吐くが、
    観客は感動のウンコを便器に山盛りにするだろう。
    

    このドラマに登場する人物たちは、
    おしなべて譬えようもなく無様だが、
    それは、現代日本とそこに生きる人間たちの、
    あられもなく愚かな無様さの痛烈な表象にほかならないのである。
    

    
    
    
   
  

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2013年02月03日

竹中直人  自縄自縛の私





    「自縄自縛の私」・・・・ねえ。
    そもそも、自縄自縛なんて、死語でないかい?
    ここ10年、いや20年、
    こんな言葉、
    使ったことも、耳にしたことも、目にしたこともない。
    自業自得だって、使ったことないし、
    使いたくもないというのに。

    
    でも、原作の題名がたぶん、
    「自縄自縛の私」・・・なんだろうね。

    
    山田太一だって、
    「東京物語」を「東京家族」に変えたんだから、
    原作のことなんか気にするより、
    観客が見たくなるようなチャーミングな題名に、
    してほしかった。
    たとえば、
    「人間の厄介な性癖に関する物語」
    とかね。

    
    うっ、自分を縄で縛って快感?を得る若い女の物語。
    なんか、食欲そそられないなあ。
    そのために往復の時間を含めて、
    4時間も縛られるなんて、
    自縄自縛でも、自業自得でもない・・・よなあ。

    
    ・・・と、初日の雨の土曜日、
    シネコンへ出かけていきました。

    
    そのシネコンが入ってるビルの4Fには、
    GAPがあって、
    つい数日前そこで、
    8900円のスリムなチノを、
    なんと1990円でゲットしてるから、
    そのときの興奮と快感は、自縛とは比較できない・・・
    そう思えぱいいか。

    
    ということで、見に行きました。
    じつは、ぼく、
    ボンデージ(縛る遊び?)、好きじゃないんです。
    したことも、されたこともないし。

    
    
    ふふふ。
    ところが作品は、なかなか悪くない出来で、
    けっこう楽しく見ることができました。
    変態チックな素材だし、
    エッチっぽいものでもあるし、
    出ている俳優も知らない人が多かったりしたのですが、
    脇役陣、
    とくに安藤政信、綾部祐二、津田寛治、米原幸佑、馬渕英俚可などが
    もう抜群にうまくて、
    これは、俳優本人もさることながら、
    監督竹中直人の実力と功績。

    
    彼は、
    事前に台本を頭のなかに入れたら、
    その場では細かいことは言わずに、
    即興的に、勢いで撮っていく主義の人。
    だから俳優が、じつにいきいきとしていて、
    計算づくの演技では出せない絶妙でコミックな味が、
    随所に散りばめられている。

    
    
    あ、忘れてた。
    ドラマの内容。

    
    広告代理店に勤めてる女の子が、
    仕事その他が思うように行かなくて、
    そのストレス解消のために、
    自分の体を縄てグルグル巻きに縛る話。
    ネットで知り合った同じ趣味?の男性も、
    夫婦関係が冷えきっていて、
    仕事でもコンプレックスを抱えている。

    
    
    二人とも、べつに、
    ストレス解消は縄でなくてもいいはずなんだけれど、
    縄だっていいよ。
    他人に迷惑かけるわけじゃないからね。

    
    でも、スボーツとして単独でやるぶんには、
    なんか、けっこう楽しめるかもしれない。
    それに、縛っても美しい体って、いいよなあ。

    
    ぼくも、これを契機に、
    本格的にシェイプアップをやりたいです。
    しゃんしゃん。


    
    
    
    
     

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