2013年02月05日
赤堀雅秋 その夜の侍
いかにも詩的で、いささか文学的な・・・・
題名である。
「その夜の侍」
赤堀雅秋監督作品。
これは、
赤堀雅秋が率いる劇団「THE SHAMPOO HAT」が、
下北沢のスズナリで上演し、大評判となり、
このほど映画化に及んだものである。
物語は・・・。
小さな鉄工場を経営する青年は、妻を轢き逃げされて亡くし、
深い喪失感のなかで虚無的に生きるなか、
轢き逃げ犯人を刃物で刺して、自分も死のうとする。
それを、荒々しいタッチで活写している。
伝統的なドラマツルギーを学び、
古典的な表現手法に汚染された感覚の持ち主には、
やや受け入れ難い作品といえるが、
貧しさのなか、正気と狂気のはざまに生きる人間を、
青臭くも鮮烈に描いた秀作。
復讐青年を演じる堺 雅人は、
これまでの生ぬるい草食人間的なふやけた風貌をかなぐり捨てて、
腑抜けた復讐鬼を熱演し、観客をひっぱっていくため、
ついつい固唾をのんで画面を見つめることになる。
それは、この復讐劇がどうなるかという、
スリルとサスペンスのせいではなく、
随所に点在する閉塞状況下の人間の描写が、
じつにユニークだからだ。
とくにラストの雨の公園での対決シーン。
復讐青年・堺 雅人は、
メモを取り出して、
毎日の食事の記録を読み上げ始め、
轢き逃げ青年のみならず、
観客までもを唖然とさせる。
○月○日朝 セブンイレブンのサンドイッチ
昼飯は抜き
夜はカップラーメン・・・・
といった調子で、数日間の食事の内容が披露されるのだが、
すべてがセブンイレブンの個食であるところが、
凄味を帯びて伝わってくる。
かくのごとく、
赤堀雅秋のフィクションは、
その嘘っぽさの欠落が、しつに鮮やかなのだ。
山田孝之扮する轢き逃げ青年・木島は、
「うんこ出ない」という台詞を吐くが、
観客は感動のウンコを便器に山盛りにするだろう。
このドラマに登場する人物たちは、
おしなべて譬えようもなく無様だが、
それは、現代日本とそこに生きる人間たちの、
あられもなく愚かな無様さの痛烈な表象にほかならないのである。
Posted by kimpitt at 19:39│Comments(0)