2012年08月29日
臭いといえば 臭いけれど 高倉 健 「あなたへ」

彼女の遺言には、
「さよなら。
骨は故郷の海に埋めてほしい」
とだけ書かれていた。
そこには、
「愛していた」とも、
「お元気で」とも、
「お世話になりました」とも、
書いてはなかった。
しかし男は、
富山から長崎まで、
遺骨を抱えて旅に出る。
日本映画「あなたへ」
降旗康男監督作品。
主演は、高倉 健。
81歳、6年ぶりの主演だという。
そして、
降旗康男監督の高倉 健主演作品は、
これが、20作目になるそうだ。
もしかしたら、フランソワ・トリフォーも、
あの青年を主役にした作品を、
そこまて、つくってはいないのではないか。
ドウデモいいけれど、
これは、「よほどのこと」といえるだろう。
降旗康男は、
無口で孤独でニヒルっぽい高倉 健・・・
というより高倉 健が演じる主人公に、
自分自身を投影していたのかもしれない。
あるいは、そういう役が似合う高倉 健に、
恋しているかもしれない。
さて、「あなたへ」。
ある意味で、降旗with高倉の作品は、
見方よにっては、じつにクサイいし、
主人公は、かなり類型的なキャラになっている。
しかし、
田中裕子・佐藤浩市・余 貴美子、
大滝秀治・原田美枝子・ビートたけしなどの助演陣の、
圧倒的な存在感はすごいし、
チョイ役とはいえ、三浦貴大も見逃せない。
三浦は、タレント臭が皆無で、
オフでの話しぶりなどもじつに自然。
チャラチャラした若手タレントが多いなかでは、
青年らしい清潔感が、群をぬいている。
そして脚本も、悪くない。
テレビドラマの安っぽさはなく、
やや言葉は少なめで、
そのぶん余韻が深くなる。
三浦貴大は、某週刊誌のインタビユーで、
「この作品では、映像を通してでも、
多くを説明してはいません」
と語っているが、
彼の視点の良さもさることながら、これは、
脚本の青島 武(静岡県出身)と、
降旗康男監督の功績といえるだろう。
客席には、後期高齢者とおぼしき人が目立ったが、
さまざまな悲しみを抱えて生きる無名の人たちに、
優しいまなざしを注ぐ佳作である。
Posted by kimpitt at
21:47
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2012年08月18日
2012年08月18日
ベストワンにしてもいい 「ムサン日記 白い犬」

2010年に制作された、この韓国映画、
「ムサン日記/白い犬」は、
カンヌ、ヴェネチア、ベルリンのいずれの映画祭にも、
参加していない。
それが、
応募したけれどダメだったのか、
なにかの事情で応募できなかったのかは、
わからない。
プサン、ロッテルダム、東京フィルメックス、
さらにはサンフランシスコ、ロシア・タルコフスキー、
などの映画祭で受賞していることから類推すると、
応募したけれど、コンペに参加できなかった・・・
ということも、高い可能性でありうるだろう。
しかも賞は、
グランプリ、審査員特別賞、批評家連盟賞など、
高い評価を獲得しているのだから、
残念でならない。
なにか残念かというと、
この逸品を発掘しえなかった映画祭の、
精神の貧困さが、である。
これは、邪推でしかないけれど、
「ムサン日記/白い犬」が、初の長編作品ということで、
監督パク・ジョンボムの名前は、
まださほど知られていなくて、
応募したけれど予選で?落ちた可能性もありうる。
ベルリンはさほどではないにせよ、
とくにカンヌは、
過去に受賞している監督を(ECO)贔屓する癖があることは、
多くのシネフィルの知るところなのだから。
まえおきが長くなってしまったけれど、
この「ムサン日記/白い犬」は、
ウァン・ビンの「無言歌」と並びうる、
最近のアジア映画の傑作で、
ぼくの2012年のベストテンでは、
「無言歌」と「ムサン日記/白い犬」が、
トップ争いをすることになるだろう。
内気で孤独で暗い脱北青年の悲劇を、
やや不器用とも思われかねない筆致で、
きわめて清冽に描いたこの作品は、
資本と観客ににじり寄る術に毒された作り手と、
それに甘えて縋るしか能のない観客に、
平手打ちをくわせるような、
凜とした作品。
映画にとって大切なのは、
表現の技法などでスイを凝らすことではなく、
伝えたい現実に、どれだけ誠実に向き合えるか・・・
だということを、この作品は、
無言で示唆している。
ラストシーンの鮮やかな幕切れも、
近年稀にみる出来ばえだと称賛しておきたい。
監督のパク・ジョンボムは、
ヴィットリオ・デ・シーカの「ウンベルトD」が、
大好きで、
DVDも持っているという。
なるぼど、と思った。
「ウンベルトD」は、
ロンドンから取り寄せたものを、
ぼくも持っている。
Posted by kimpitt at
20:33
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