2013年12月04日

「共喰い」  純情な男たちの 性と暴力の神話




   
     田中慎弥が芥川賞をとった「共喰い」を、あの青山真治が、映画化
    した。

    
     田中慎弥は下関市に住み、青山真治は北九州市の生まれ。この二つ
    の地方都市は、関門海峡をはさんで向き合っている。

    
     田中慎弥原作の「共喰い」は、どんよりとした地方都市を舞台にし
    て、性と暴力の神話的世界を暗い情念で塗り込めた小説。
     この二人、最初は体質が違うのではないかと思ったが、青山真治は
    かつて、「路地へ 中上健次の残したフィルム」という小品をまとめ
    た前科?があるし、「Helpless」という北九州市を舞台にし
    た作品で長編デビューをはたしているから、田中慎弥との接点は、む
    しろ濃厚である・・・といえるのかもしれない。

    
     追いかけているテーマは違うけれど、函館市を舞台にした「海炭市
    叙景」を、ぼくは、思い出していた。
     「海炭市叙景」は、熊切和嘉の監督作品で、原作は佐藤泰志。さび
    れた港町で、不器用に生きあぐねる無名の人間たちを、静謐なタッチ
    でスケッチした秀作である。

    
    
     佐藤泰志と田中慎弥は、世界は異なるけれど、表現力のオーソドッ
    クスな巧みさと作家としての地味な存在感という点では、どこか似か
    よったものがある。

     そして田中慎弥は、どす黒い情念のようなものを内部に抱えている
    のだけれど、佐藤泰志には、そのようにドロドロしたものはなく、む
    しろ清冽なリリシズムが通奏底音のように作品に鳴り響いている。
    

     ということで、青山真治は、体質的には田中慎弥よりも佐藤泰志の
    ほうに共通する因子をもっているのではないのか。

    
    
     映画「共喰い」は、じつによくできた作品で、映像もいいし、抑制
    的な音楽もいいし、俳優たちもみな素晴らしい。
     しかし、主役の遠馬を演じた菅田将渾が言うように、青山監督の作
    品における性描写は、「品があって美しく、すこしもいやらしいとこ
    ろがない」。

     これは、中上健次が描く世界とも違うし、田中慎弥がかかえる情念
    ともまったく違う。

    
     田中慎弥は奇妙にへそ曲がりした男なので、最初は「映画は原作を
    こえられない」みたいな虚勢をはっていたけれど、完成した作品を見
    せられたら、「ほぼ絶賛」に豹変していた。爆笑?
    

     小説「共喰い」がもつドロリとした情念は、まさに田中慎弥の肉体
    の内部に巣くう黴菌(=虚勢)なのだが、その菌が宿る肉体そのもの
    は、じつはとてもピュアで純情なものであることが、はらずも露呈し
    たのが、この映画化だったといえそうだ。

    
     ははははは。めでたし、めでたし。
     田中慎弥も、青山真治も、じつは、とても純情な男なのだ。
    
    


    
    
  

Posted by kimpitt at 20:20Comments(0)