2013年12月03日
トム・ハンクスに アカデミー賞を 贈りたい

次回のアカデミー主演男優賞は・・・トム・ハンクスにあげてもい
いと、不覚にも思ってしまった。
思えばこの人、若き日にアイドル・スターではなかったし、もとも
とイケメンでもないし、個性の強い演技派でもないし、地味でフツー
の俳優だった。
映画界で、よくもここまで、生き長らえてこられたものだと思うく
らい、普通っぽい男だ。
そのトム・ハンクスが、最新作「キャプテン・フィリップス」で演
じる主人公も、退屈なほどマジメで善良なオジサン。
思わぬ窮地に立たされると、自分が人質になって部下を救おうとす
るのだけれど、人質になって死を覚悟したときには、ひたすら家族の
ことを心配し、荒波に揺れる救命ボートのなかですら、命がけで妻に
手紙を走り書きしたりする。
こうした行為が、淡々と厭味なくできて、なにも嫌らしくはなく、
かっこよくもないのは、ひとえにトム・ハンクスの「普通の人間らし
さ」のおかげであり、この作品が日本で、かなりの好感度をもって受
け入れられたのも、トム・ハンクスの「どこにでもいそうな、あ
りふれたオジサンらしさ」が、演技というよりは、生(き)のままの
人柄の説得力となったからだろう。
ソマリア沖で発生した貨物船ハイジャック事件を、ドキュメント・
ドラマを得意とするポール・グリーングラスが、じつに見事な演出て
、好感度の高い娯楽作品に仕上げたため、2時間14分、観客は客席
から前のめりになって、事のなりゆきを凝視してしまう。
つまり、客席は、フツーのオジサンであるトム・ハンクスの応援団
と化してしまうのだ。
なぜなのか。
それは、この「キャプテン・フィリップス」が、海賊と軍事国家が
闘う戦争映画ではなく、民間の貨物船の船長とクルーが、ソマリアの
黒人海賊と戦うアクション・ドラマ。要請をうけて乗り出した海軍も
、人質になったアメリカ国民の人命救助を最優先にしている。
つまりここには、国家の権力や威信なとどいうきな臭い思想・感情
は存在せず、ひたすら人間中心のヒューマニズム。
そして、もはや死を観念している船長は、届くはずもない声を家族
に向けて発していく。その原寸大の人間臭さと弱さに、観客は共感し
ていくのだ。
トム・クルーズでは力がありすぎて不適格。ダスティン・ホフマン
ではキザ。ダニエル・デイ・ルイスでは、俗っぼさがない。
この実話の主人公であり、原作本の著者であるリチャード・フィリ
ップスいわく・・・・
「私は、ごく普通の男。利口でもなく、
勇敢でもなく、英雄でもない」
そう、世界中のどこにでもいる、原寸大の平凡で家族思いの市民で
あるオジサンの飾らない人柄と海賊との闘いに、世界の観客は拍手と
共感を惜しまない。
そうです。世界の人口の99%は、キャプテン・フィリップスやア
ナタと同じ、権力とは無縁な、善良で名もない市民によって構成され
ているのです!
万歳! トム・ハンクス!
ぼくがアカデミーの会員だったら、迷うことなく、来年の主演男優
賞は、彼に贈ります。
おっとっとっと! 忘れていました。
この「キャプテン・フィリップス」には、もうひとつ見どころが
ありました。
それは、海賊を演じている黒人の男たちです。
彼らは、在米ソマリア人のメンバーのなかからの公募により選ばれ
た人たちで、純粋の素人俳優なのです。
ところが、そのハングリーな風貌が圧倒的な現実感で、観客をとら
えます。なかには、目をぎろつかせた骸骨そのもののような男もいた
りして、観客を恐怖のどん底に陥れるのです。
このすごい存在感を、ぜひスクリーンで確認してください。
Posted by kimpitt at
21:02
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