2012年05月08日

あの男の 正体が わかったよ




    
    2000年6月、岡山で起きた事件・・・
    「高校生金属バット殺人事件」に触発されて、
    あの若松孝二が、映画をつくった。

    
    「17歳の風景」 2005年
    サブタイトルとして、「少年は何を見たのか」

    
    事件に関する安易な答えは封印し、
    問いは問いのままにして、
    風景のなかで少年がなにかを見いだすのを、
    ひたすら待ち続けた・・・・・と、
    解説がついていた。

    
    しかし、
    特典映像のなかでの、
    観客を前にした若松のトークは、
    ほとんど「よくあるオジサンの上から目線のお説教」になっていて、
    語りたい気持ちはわかるけれど、
    聴かなければよかった・・・
    と思った。

    
    北陸から男鹿半島へと、少年が、
    海岸線を自転車でひた走る映像は、
    若松の作品にしては珍しく詩的で叙情的ではあるものの、
    少年と距離をおくことに気づかうあまりか、
    作品は、単なる映像詩の連続にとどまってしまった。

    
    ただ、旅の途上で少年が、
    ひとりの老人の話を聞くシーンは、
    秀逸だ。

    
    その老人役を演じているのは、
    先鋭的な美術評論で知られる針生一郎で、
    第二次大戦後の日本の、
    そして日本人の誤った歩みについて、
    聴きごたえのある言説を、
    針生は、つぶやくように展開している。

    
    針生一郎は、役者ではないから、
    そこで、つまりカメラの前で、
    演技しているわけではない。
    自分の信念を、訥々と口にしているだけ。

    
    その力が、ぼくたちをとらえる。

    
    
    若者の悲劇を描いたものとしては、
    新藤兼人の「裸の19歳」を想起してしまうのだが、
    綿密なロケハンまでやって完成したものと比較すると、
    「17歳の風景」は、あまりにも浅くて、
    見ていて恥ずかしい。

    
    若松孝二は、旺盛な問題意識をもつ多作の映像作家だが、
    よくもわるくも、
    己の情念に溺れることを特技とする人なのだろう。


    
    
   




Posted by kimpitt at 17:42│Comments(0)
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