2012年04月12日

EPISODE 3 ■ 心臓止血





    EPISODE 3■ 心臓止血


    
    ICUに入って3日目の夕刻、
    主治医の影山さんが、
    アシスタントの女性研修医を連れて、
    やってきた。

    
    「これから管を抜いて、止血をします」

    
    両足の付け根(内股)の動脈から心臓まで、
    通してあった管を抜いて、
    その傷口を止血するのである。

    
    「あなたのいのちに関わる作業なので、
    終わるまでじっとして、絶対に動かないでください」

    
    ようするに、
    腕から採血をしたときなど、
    注射針を抜いてあとにガーゼを当てて、
    テープで止めて、しばらく押さえているという、
    アレと同じ作業だ。

    
    それにしても、
    足の付け根から心臓まで動脈に管を通すほどの技術があっても、
    止血そのものは、医師が手で押さえて止める・・・
    そのローテクに驚いた。

    
    時計で計ったわけではないから、
    あくまで勘によるのだけれど、
    30分を超える時間、
    影山医師と研修医は、
    ぼくの右足と左足の付け根を、
    それぞれ、すこし痛く感じるくらい強く押さえていた。

    
    「もし、傷口が開いてしまったら、
    血が吹き出します」

    
    
    その、あまりに原始的な作業を、
    黙々とこなしている二人は、その時間、
    何を考えていたのだろうか。

    
    彼らを支えているのは、
    単純で退屈な忍耐感なのか、
    それとも、人のいのちを守る使命感なのか。

    
    二人が押さえている局部は、
    ぼくには見えなかったけれど、
    ガーゼに滲む血の量によって、
    血が止まったかどうかを確認するのだろうか。

    
    「はい。終わりました。
    傷口は止めてありますが、
    しばらくは足を動かさないでください。
    もし、ひどく血が滲むようでしたら、
    すぐに看護師に知らせてください」

    
    ああああ・・・・・
    こうして、人のいのちは助けられるものなのだ。

    
    そのとき、ぼくは、
    なんの痛みも抱えてはいなかったし、
    すこしも苦しくはなかった。
    足の付け根を押さえられて、
    ただ、じっとしていただけ。

    
    しかし、それによって、
    自分のいのちは、
    死なずに生き続けていった・・・のだ。
    その、あまりのさりげなさに、
    ぼくは感動していた。
    

 



Posted by kimpitt at 21:35│Comments(0)
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