2012年04月07日

EPISODE 1  死の淵へ





 
    EPISODE 1■版画家・藤巻義夫


    
    2012年2月26日(日)午前9時。
    NHK・Eテレの「日曜美術館」は、
    版画家・藤巻義夫の特集だった。
    彼は、24歳で行方不明になったままとなった、
    不思議で不可解な人である。

    
    テレビのスイッチを入れた直後、
    ぼくは、喉のあたりに不快感を覚え、
    嗽をしに洗面所へ行った。

    
    しかし、なにかが胸に詰まったような違和感は治まらず、
    それは、脱力感のようなものをともなって、
    ゆっくりと胸部に広がっていった。

    
    これまでに経験したことのない症状。
    テレビを消して、ベッドに横たわろうとしたが、
    なにか変だ。

    
    そこで救急車をコールしたら、
    たまたま待機中のものがあったらしく、
    5分もたたないうちに車はやってきた。

    
    抱き抱えられるようにして車に乗る・・・
    というより担ぎ込まれた。
    症状を伝えると、救急士は、
    どこかの病院と連絡をとった。

    
    相手の反応は聞こえなかったけれど、
    「1階の受け入れ口で待機しているから、すぐ来い」
    ということらしかった。
    事実、10分程度で到着すると、
    あっというまにぼくは、手術室に運び込まれてしまった。

    
    それは、静岡市内の心臓外科ではもっとも権威がある
    静岡市立静岡病院の、ハートセンターだった。

    

    
    発症からわずか30-40分の出来事。
    意識ははっきりしていたが、
    なにが起こっているのか、
    何人の人たちに囲まれているのか、
    なにをされているのかは、
    まったく不明。

    
    すると、にわかにぼくは、大便が出たくなり、
    看護師に告げると、
    そのための対応処置をしてくれたらしい。
    そして排泄を終えたのを待ちかねたように、
    吐き気がしてきた。
    それも、即時に対応してくれて、
    「嘔吐の量が、かなりありました」と、
    看護師が医師に報告していた。

    
    それから3時間半、
    医師たちは、慌ただしくなにかをしていた。
    ぼくは、天井を見つめたまま。
    痛みは全身のどこにもなく、
    担ぎ込まれたときの苦しさと脱力感も、
    もはや消えていた。

    
    
    手術なのか処置なのか、
    とにかくなにがか終わり、
    ぼくは、ICUのベッドへ移動した。

    
    これが、
    心筋梗塞と狭心症の発作で、
    手術中に動脈が詰まりかけて苦心した・・・
    と知らされたのは、後のことである。

    
    なお、
    「日曜美術館」の藤巻義夫特集は、
    翌週の再放送を病院の個室で見たし、
    DVD録画もセットしてあった。


    



Posted by kimpitt at 20:14│Comments(0)
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