2012年02月14日

神は ぼくたちに 暗闇を 与えてくれた



 
    彼は、ステージの明かりを消して、
    手元のピアノの鍵盤だけを照らす、
    小さなライトだけをつけて、
    演奏した。
    

    暗闇のピアノ!
    弾いたのは、グリーグの「叙情小曲集」で、
    その演奏は、絶品そのものだった。

    
    スビャストラフ・リフテル。
    彼の久しぶりの、そして最後の日本公演。
    そして、それは、
    ぼくが聴いた最初で最後のリヒテルだった。

    
    
    さて。
    山梨県白州にある友人の別荘へ泊まったときのこと。
    南アルプス山麓にあるその別荘地には、
    街路灯などひとつもなく、
    夜になると、遠い町の明かりも見えず、
    100%暗闇だった。
    ぼくは、息をひそめて、その暗闇を見つめていた。
    
    その夜は、月も星も隠れていた。

    
    
    近代文明によって、
    人間が失ったものは、いろいろあるけれど、
    そして、
    失ったことすら忘れているけれど、
    その筆頭に挙げられるのが、
    「暗闇」かもしれない。

    
    
    しかし、
    これは、悪意なき配慮なのだろうか。
    神は、ぼくたちに、
    真昼の暗闇を用意してくれた。

    
    閉塞感が強く、
    明日はおろか今日すらも見えない、
    殺伐とし、茫漠とした暗闇の世界に、
    ぼくたちは生きている。

    
    神の見えざる手は、
    賢くもあり、恐ろしくもある。
    
    
    
    




Posted by kimpitt at 17:02│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
神は ぼくたちに 暗闇を 与えてくれた
    コメント(0)