2012年01月07日
中国北部には 「女中の墓場」という名の 場所がある
中国の若手鬼才・王兵(ワン・ピンの作品、
「鉄西区」
「第1部:工場 240分」と、
「第2部:街 175分」までは、
なんとか征服した。
残すは、「第3部:鉄路 130分」である。
監督・ワン・ビンの解説によると。
第一部「工場」は、
50年におよぶ計画経済の遺産と、
数10年にわたる社会主義制度が、
中国の個人、家庭、そして社会にいかに影響を与えたかを検証した。
中国東北部、鉄西地区には、
経営の行き詰まった国営工場があるが、
その中の3つに着目し、
そこで働く人々の日常生活と工場での日課を描き出した。
工場が破産に近づくにつれ、
多数の労働者が解雇され、
彼らは慣れ親しんだ工場という環境から追い出され、
不確実で恐ろしい未来へと投げ出されていく。
もっと平易に、ぶっちゃけて言えば、第1部は、
巨大な国営工場とその労働者の衰退と死を記録したものだ。
それが、えんえんと4時間も描写されるのだから、
恐ろしい。
大半の人は、睡魔に襲われ、
やがて昏睡状態に陥っていくはずである。
ぼくはどうだったかといえば、
悪夢を凝視する幼児のように、
画面を見つめ続け、どっぷりと絶望した。
いまの日本のことを思いつつ、である。
そして、第2部へ。
こちらは、街と人を描いている。
場所は、鉄西区艶粉街。
むかし、金持ちは、雇っていた女中が死ぬと、
ここへ埋葬したそうだ。
そのことから、「女中の墓場」と呼ばれた所だという。
オープニングは、いっけん陽気だった。
街の広場で、宝くじの大売り出し。
その客寄せの男いわく、
「タバコは肺に悪い。
酒は、胃に悪い。
サウナは、高い。
クラブは、金を食う。
マージャンや賭博は、社会悪。
しかし宝くじは、
国と人民を幸福にする」
思わず笑えてしまったが、
そのあとに続いたのは、
取り壊しが決まったスラム街と住人たちの、
明日のない日々のスケッチ。
少年をはじめとする失業者の群れ。
4月まで雪が溶けない極寒の街。
暖房のきいた部屋で見ていたぼくですら、
心が凍りつくようなスラムの現実。
ポルトガル映画「ヴァンダの部屋」も、
スラム街の破壊を描いたものだが、
スケールが違う。
鉄西区艶粉街というのは、
ブロックという名にはそぐわない広大なエリアなのだ。
「どこにも職がない。
死ぬまで日雇いの肉体労働か」
とぼやく10代の若者の、
うわべは、いささかも暗くない顔が、
逆に痛々しく見えてしまい、
しょげきっている日本人は、弱いんじゃないかと、
思ってしまった。
そんなことで、
死に体の鉄工所の4時間から、
破壊されるスラムの記憶の3時間。
うーむ。
これこそ、2012年の幕開けにふさわしい、
絶望のセレモニー?
この覚悟の上にしか、
日本人の今年の生活も存在しえないと、
ハラに決めたのである。
でも、俺ってバカだから、きっと、
艶粉街の若者と同じように、
いつのまにか悩みのなさそうな顔になっていくのだろう。
Posted by kimpitt at 19:54│Comments(0)