2013年06月04日

木下恵介を描いた 「はじまりのみち」  その意味は ここにある




 
    いまから約50年前、
    日本映画は、黄金期だった。

    
    
    その黄金期を支えていたのは、
    小津安次郎
    黒沢  明
    木下 恵介
    の3人だったと、言う人もいる。

    
    そして、小津安次郎の代表作であり、
    日本映画のオールタイム・ベストテンでは、
    いまだに、トップの座にランクされることもある「東京物語」。
    今年、これは、「東京家族」という名でリメイクされている。
    監督は、山田洋次である。

    
    しかし、小津監督自身を主人公にした作品は、
    つくられてはいない。
    黒沢 明についても、同じことがいえる。

    
    
    ところが、今年、
    木下恵介を主人公にした「はじまりのみち」
    という作品が、制作された。

    
    小津安次郎にも、黒沢 明にも起きなかったことが、
    木下恵介には、起きてしまった。

    
    これは、非常に象徴的な出来事だと思う。
    

    木下恵介は、
    小津安次郎・黒沢 明と比較して、
    国際的な知名度は低いけれど、
    日本での大衆的な評価は、
    小津・黒沢よりもはるかに高く、
    ヒット作も、二人よりは多い。

    
    この3人のなかで、
    アクション活劇を手がけたのは黒沢だけで、
    高級住宅地に住むハイソな家族を描いたのは、小津だけ。
    

    小津は、静かに聡明に人間を見つめ、
    初期の黒沢は、正義感にあふれるヒューマニズの人だった。
    そして、木下は・・・・・・
    いつも、名もなく力もなく貧しい人間を見つめ、
    優しく温かな眼差しで、彼らを包みこんでいった。

    
    多くの無名市民が木下を支持したのは、
    彼を、自分たちの味方としてとらえていたからだろう。

    

    
    映画「はじまりのみち」は、
    木下恵介の伝記映画ではなく、
    映画監督としての歩みでもない。

    
    若き日に、彼が、
    映画監督として頓挫しかけた時期に、
    病に倒れた母を献身的に介護するエピソードを、
    へんに力を入れることもなく、
    さらりと描いた小品である。

    
    木下を演じたのは、加瀬 亮。
    監督・原 恵一の指導の良さもあるが、
    引き気味の受け身の演技が抜群で、
    加瀬 亮なくして、この映画の成功はありえなかった。

    
    顔は、むしろまったく似ていなにもかかわらず、
    木下恵介の再来かと思わせるぼど、似ている。
    なにが似ているかというと、
    「人に対するやさしさと、
    ひそかに隠しもっているといいたい精神の強さ」。

    
    
    加瀬 亮の才能は、
    さまざまな監督に評価され、
    優れた出演作品が多いけれど、
    「炭海市叙景」と「はじまりのみち」は、
    究極の代表作として記憶されていい。

    
    
    木下恵介は、
    庶民にもっとも近いところで、
    映画をつくり続けた、希有の人て、
    この「はじまりのみち」は、
    そのことを、したたかに証明した作品。
    木下の死後15年目にして実現した、
    日本映画界の快挙である。
    


    
    





Posted by kimpitt at 19:58│Comments(0)
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